Aqoursの3rdシングル「HAPPY PARTY TRAIN」が発売されてから、今日でちょうど4年*1。鉄道を題材としたラブライブシリーズの楽曲として、私にとっても好きな曲の一つなのですが、もう4年も経つようです。
ラッピング電車の存在もあり、当曲のメインの舞台は伊豆箱根鉄道駿豆線だと思われる方も多いかと思います。しかしながら、MVに登場するような扇形庫*2と転車台*3は、駿豆線内には存在しません。駿豆線内にも、大場駅に車庫と工場が設けられていますが、その様子はMVに出てくるものとは全く異なります。
同曲に登場する扇形庫のモデルは、大分県にある「旧豊後森機関庫」であるとされています。旧豊後森機関庫は、JR久大本線の豊後森駅に併設していた機関庫です。久大本線が全通した昭和9(1934)年に発足し、蒸気機関車の引退に伴って昭和46(1971)年に廃止されるまでの37年間にわたり、急な峠越えを伴う久大本線における水や石炭の補給拠点や機関車の交換地点などとして、重要な役割を果たしていました。
そんなところにこの度行ってまいりました。いつまで経っても行けなかったものが、大学卒業と就職を控え、今行かなかったら当分行けないと思い、思い切って行ってきました。
豊後森駅へは博多駅から特急列車で1本。博多から久大本線を経由し湯布院方面へ走る「ゆふいんの森」に乗車しました。博多から久留米までは鹿児島本線を走り、久留米から久大本線に入ります。筑後川や玖珠川などに沿って走る久大本線は、風光明媚な車窓が見どころ。慈恩の滝などの車窓スポットも見ながら、列車はゆっくりと、と書きたいところですが、意外にも飛ばしつつ、山の中を走ります。そして博多駅を出て2時間弱、列車は豊後森駅に到着します。
木造の落ち着いた雰囲気の駅舎の豊後森駅、改札外の待合室が広く取られているのは、昔ながらの作りの駅といったものでしょうか。
機関庫までは駅から歩いて数分。歩いていると…
なんだこれは!
大分県玖珠郡玖珠町という場所ながら、しかしこの一角だけはどことなく沼津を思わせるものです。
踏切を渡り機関区に到着。踏切の名前は「構内踏切」でした。どうもここまでは豊後森駅の構内となるようです。豊後森駅、機関庫無き今なお保線基地があるようです。
機関庫本体の前に、併設されている資料館「豊後森機関庫ミュージアム」を見学。
まず目を引いたのは現役時代の機関庫を再現した模型です。良く作りこまれていて感心しますね。蒸気機関車に混じり、赤とベージュの模型もありますが、こちらは気動車の模型。豊後森駅の隣にある恵良駅からは、かつて「宮原線(みやのはるせん)」という路線が伸びており、そこで走っていた気動車も豊後森に配置されていました*4。
その他、国鉄時代から今に至るまでの展示品のありました。豊後森駅構内の制御盤や国鉄・JRの制帽など、見る人によっては刺さる展示品もありました。
中でも注目したのがこの「汽車土瓶」。蒸気機関車の動輪や茶の文字が入っており、かつてはこの容器でお茶が売られていたとのこと。ペットボトルや缶にはない風情があっていいですね。
そして奥の方で異彩を放っていたのがこの一角。Aqoursの寝そべりとフィギュアが並んでいました。ファンの寄贈でしょうか。ただ特に説明も何もないので、何も知らずに見ると困惑するかもしれませんね。
ミュージアム館内を一通り見たのち機関庫本体へ。
転車台には9600型蒸気機関車の29612号が展示されています。1919年製の29612号は長崎を中心に活躍。原爆投下直後には負傷者の輸送にも活躍したとのことです。1974年に引退したのち、福岡県内で保存されていましたが、老朽化のために解体が決定。それを何とか残そうという動きもあり、補修の後2015年より豊後森にて展示されています。
機関車の奥には機関庫の建物と転車台が残っています。転車台や一部を除き、線路は剥がされていますが、建物はほぼそのまま残っています。
昭和に入ってから建てられた扇形庫であり、建物はコンクリートでできているようです。ガラスはかなりの数が割れてしまっていますが、しかし建物はしっかり残っているというのは、この時代のコンクリート建築が頑丈なものだということを感じさせるものですね。
ちなみにこの豊後森機関庫は、太平洋戦争末期の昭和20(1945)年8月4日に、アメリカ軍による機銃掃射を受け、職員3名が亡くなりました。機関庫の壁には今なおその痕跡が残っているとのことですが、今回それを確認することはできませんでした。
機関区を一通り見学したのち、豊後森を後に。駅に向かう前に、先ほど通りかかったお店に立ち寄りました。もとはスポーツ用品店であるようですが、観光客向けに飲み物やソフトクリームなども販売していました。お店の方との会話も弾みました。
―レールはどこまでつながるか まだまだわからないね
HAPPY PARTY TRAINの歌詞の一節です。どこまでも続いていくようなレールのように、どこまでも前向きに走っていたいという意味でしょうか。
豊後森駅を通る久大本線は、昨年の豪雨災害で被害を受け、今年3月まで一部区間が運休を余儀なくされていました。地元の方々は運転再開を待ちわびていたようで、ミュージアムの中には、運転再開を祝うようなイラストもありました。
コロナ禍において鉄道による大量輸送が感染拡大の原因ともとる人もいるようですが、しかし鉄道には、これをうまく言語化するのはちょっと難しいのですが、どこか人を前向きにさせるような情緒的な何かがあるような気がします。HAPPY PARTY TRAINは、そんな思いをなんとなく強く持たせてくれそうなもので、鉄道好きの身として、聴いていて前向きになれる曲であるわけです。
Aqoursの曲で一番好きな曲は?と聞かれれば、もしかしたら別の曲かもしれませんが、しかしHAPPY PARTY TRAINは、なにか特別な思いを抱かせる曲であることは間違いないです。そんな曲の記念すべき日に合わせ、簡単な旅行記と雑感を記してみました。