【乗ってみた】ホンダ・フィット(現行・GR型) 横浜~沼津往復+α、もっと評価されてもいいのに・・・

表題の通り、今回はオタクソカーレビュー試しに乗ってみた車の感想です。

先日乗車したのはホンダ・フィット。コンパクトカーとしては知名度が高く、日本車を代表する一台と言っても過言ではない車です。2001年に発売された初代モデル以来、広い車内空間や優れた燃費性能が高い評価を受け、2002年には国内年間販売台数ランキングにおいて、それまで33年連続で首位を守り続けたトヨタ・カローラを抜くほどのヒット車種になりました。

現在販売されているのは2020年デビューの4代目モデル。それまでのモデルよりも内装の質感や装備の内容が大きく向上したのが特長です。例えば、シートは前後共に一から開発され、座り心地や疲れやすさを考慮した設計に、パーキングブレーキは停止保持機能付きの電動式に、そしてブレーキは前後共にディスク式になるなど、国産のコンパクトカーとしてはかなり豪華になったと言える設計です。

1.3Lのガソリン車と1.5Lのハイブリッド車が用意され、特に後者はフィットのハイブリッド車では初めてとなる2モーター式のハイブリッドシステムが採用されました*1

今回乗車したのはガソリン車。またしても出処はタイムズカーシェアなので、グレードは一番下の「ベーシック」です。

グレードの名称がほかには見ないものになっていることもフィットの特徴。「ベーシック」のほかには「ホーム」「ネス」「クロスター」「リュクス」というグレードが存在します。トヨタ・ヤリスを例に取れば、「X」「G」「Z」というようなアルファベットで表記されることが多いものですが、「使う人の嗜好に合わせたモデルを提供する」という狙いか、このような展開をしているようです。

「ベーシック」とは前述の通り一番下のグレードであり、一番シンプルなモデルになっているのですが、それでも運転支援システムである「ホンダセンシング」が装備されていたり*2パーキングブレーキは電動式だったりするなど、2022年のコンパクトカーとして必要な装備を一通りそろえています。

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外装はこの通り。2022年5月時点では、フィットにBEVモデルは存在しないものの、フロントグリルを無くしたフロントデザインが大きな特徴です。フロントグリルを大きく取り、押し出し感を強く持たせたデザインの車が増えている中、そのトレンドに逆行したデザインとなっています。今回乗ったモデルではスチールホイールと樹脂製のホイールキャップを組み合わせた15インチタイヤを履いていますが、アルミホイールや大きいサイズのタイヤも選択することも可能です。個人的には、あまりに並外れた外見でなければなんでもいいかなとも思っているので、グリルレスデザインもスチールホイールも許容範囲ではあるのですが。

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内装でのトピックは大きく2つ、「2本スポークのステアリングホイール」と「マルチインフォメーション・ディスプレイ」です。車のステアリングホイールはほとんどが3本スポークを採用していますが、フィットは2本スポークを採用しています。マルチインフォメーション・ディスプレイには車速やエンジン回転数のほか、燃費や航続距離、経過時間等を選択して表示できます*3。水温計や燃料計はディスプレイの左右に配置されているものの、それ以外の計器類はほぼすべてがマルチインフォメーション・ディスプレイに集約されています。この2点により前席周りの内装の印象はかなりシンプルになっているように感じられます。乗車した個体ではグレーの内装の所々に白いパネルがあしらわれ、それがアクセントになっているようでした。

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後席の空間はコンパクトカーとしてはとても広く取られています。身長173㎝の私が座ってもゆったりと過ごせるほど*4。乗る人の体格にもよるのでしょうが、後席に3人乗っても、そこまで窮屈には感じないかもしれません。

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更にこの後席は座面を跳ね上げられる作りになっています。上下方向に大きい空間ができ、折りたたみ自転車や大きめのスポーツ用品も詰め込めそうです。

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ラゲッジスペースも同じ価格帯・サイズのコンパクトカーと比べるととても広大。後席を倒すと広く取れることは確かながら、後席を倒さなくても十分すぎるくらいの広さがあります。買い物や小旅行くらいなら余裕でこなせそう。

内外装の話はここまでにしておきつつドライブインプレッションへ。まずは戸塚駅付近から一般道で厚木方面へ。まず気づいたのは静粛性の高さ。下道の速度域であればエンジン音はほとんど目立たず、ロードノイズも控えめ。好きな音楽もよく聞こえそうですね。エンジン音が目立たないというと、周囲の車と速度を合わせ、特段急のつく操作をしない限り、エンジン回転数は2000rpm前後よりも回らないことがほとんどでした。エンジンやCVTの特性や制御が良いのか、低速域からスムーズに走ってくれる印象を持ちました。エンジン由来の振動もほぼ感じず、ここは4気筒エンジンの強みを感じた次第です。

東名高速道路の厚木南インターから高速道路に移ると、予想に反した挙動を見せてくれたのでびっくりしきりでした。燃費の他に走りの良さをアピールしていた先代とは違い、「心地よさ」や「親しみやすさ」を前面に押し出している現行のフィットですが、いざ高速道路に持ち込むと意外にもしっかり走ってくれました。調べてみると、プラットフォームは先代から引き継いでいるようです。ゆるさはそこまで感じず、骨太な印象を受けたのには驚きでした。

100㎞/hで平坦路を巡航しているときのエンジン回転数は2000rpm前後。もっと回ってもっとにぎやかに走るかと思いきや、めちゃくちゃ静かでスムーズに走ってくれました。楽しい車かどうかは別として、もはや1つか2つくらい上のクラスの車のように感じられました。狙ったとされる「心地よさ」とは、このような点に表れているのでしょうか。

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東名高速道路の中井PAで小休止。ここまでの平均燃費は20.6km/Lでした。「ベーシック」のガソリン車のカタログ燃費(WLTCモード)は20.4km/Lなので、それ以上の数値を記録しています。ハイブリッドではないと考えると、この燃費はかなり良い数字だと言えそうです。

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中井PAを出て沼津方面へ。高速を降りた後の燃費は20.1km/Lと前よりも若干悪化。ただし、中井PAから70㎞程走ったにもかかわらず、航続可能距離はなぜか変わらず497㎞のまま。現行のフィットは燃費競争からは退いたように見えますが、その割には燃費はめちゃくちゃいいもので、これをアピールポイントにしないというのはもったいないと感じた次第です。

昼食を済ませたのち内浦・西浦方面へ。海沿いを流しているときの乗り味は「心地いい」という表現がぴったりでした。不快な振動やノイズも少なく、ストレスを感じることなく運転できるように感じました。

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ワインディングも試してみようということで、西伊豆スカイラインへ。東名を走っていた時に感じたシャシーの出来の良さはワインディングでも健在で、車の挙動に不安を感じることはありませんでした。攻めるような走りではなく、景色を楽しみながら走るのであれば、まず問題ないかと感じました。上り坂ではエンジンの回転数が上がる場面があったものの、ノイズも大きくなくエンジンからの振動もほとんど目立たず、ストレスフリーな車だという印象をここでも持ちました。

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一方、シフトレバーに「L」レンジがなかった点が気がかりでした。「S」レンジはあったものの、ワインディングでの下り坂など、強めのエンジンブレーキを使いたいときにはちょっと心もとない感じがしました。ただ、余程の急坂でない限りは「S」レンジでもエンジンブレーキは十分効くので、その点の感覚は走らせ方次第になるのかなと思います。

沼津市街まで戻って一泊し、翌日は伊豆三津シーパラダイス等を回った後、駿河湾沼津SAから横浜方面へ。クルーズコントロールやステアリングアシストの制御も自然で、これなら積極的に使いたいと感じました。ロングドライブも難なくこなせることを実感できました。

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2日間で370㎞程走って戸塚駅前へ帰還。西伊豆スカイライン等のワインディングを走ったり、横浜市内の渋滞に巻き込まれたりと、何かと燃費の悪化要因となる走り方もしましたが、それでも最終的には18.7㎞/Lの平均燃費を記録。ハイブリッド車でもない車でこの数値はかなりいい方と言えるでしょう。

2日間にわたり乗り回して感じたのは、フィットという車が従来から持つ特長こそ見聞きすればわかるものの、他の車を押しのけて「これいい!」と思う魅力は乗らないとわからないということでしょうか。それもディーラーでの短距離試乗ではなく、ある程度の距離をじっくり乗って気づくもの。街中よりも高速道路やワインディングの方が走りが心地よいと感じる、燃費の良さだって短距離じゃそこまで実感できないはず。

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2020年にデビューした現行フィットですが、デビュー間もないころから今に至るまで、各所で販売不振が伝えられています。「フィット 販売不振」でGoogle検索をかけると、上記の通り様々な記事がヒットします。

「グリルレスデザインが日本人の好みに合わない」「機能は充実しているけど割高感がある」等々、不振の原因はいくつか指摘されています。それらだって確かに大きい要因だとは思いますが、「必ずしもフィットじゃなくても、かつてフィットを選んでいた目的が果たされるようになったから」というのが、私が感じるフィットが昔ほど売れなくなった理由です。

フィットが初めて世に出た2001年当時、サイズこそ小さいけど室内空間は広いという車は、それこそフィットだけだったはずです。2013年にデビューした3代目のハイブリッド車では、発売後に幾度とリコールを余儀なくされたとはいえ、トヨタ・アクアを越えるカタログ燃費を達成するなど、燃費性能だってフィットの武器だったと言えるでしょう。

2022年現在販売されている新車を見ると、広さか燃費でフィットを上回る車は多くあります。車体形状はやや違えど、ソリオやルーミーの方が車内空間は広いし、空力優先のデザインゆえに居住性や積載性能こそ劣るものの、ヤリスやアクアの方が良く、ノートとも互角という感じ。2点を両立している車は少なく、その点やはりフィットは優秀な車だとは思うものの、CMを見てもそうした点をアピールポイントとはせず、「心地よさ」というような情緒的なポイントを前面に出しています。特にハイブリッド車では、燃費向上をモデルライフの大半で追求していた感が強い先代から打って変わったような気がします。

そもそもホンダのラインナップ自体が、フィットを買おうとしている人がほかに流れる要因になりそうなものであるとも言えそうです。ホンダのディーラーに行って、セールスからの説明を聴きながら展示車を見て、ディーラーの近所をちょっと試乗するだけであれば、もしかしたらフィットではなくN-BOXN-WGNあたりの軽自動車を選んでしまうかもしれません。維持費が安かったり、小回りがきいたり、フィットにはない特徴がありながら、室内空間が広く取られて乗り味も街乗りなら悪く感じることはないとなれば、その状況でわざわざフィットを積極的に選ぶ理由は無さそうです。

折を見て自分の車を買おうかなと考えている今日この頃、使い勝手の良さと経済性、走りの良さ等を兼ね揃えたフィットは、長く乗れそうだという点で悪くはないと思うものの、今から「絶対これが良い!」と心から思えるかというと微妙なところ。例えばMAZDA2であれば、内外装のデザインも良くそれだけで所有欲を満たされるのかもしれませんし、ヤリスであればラリーカーのベースというだけで惹かれるところがあります。フィットはいい車だとは思うものの、どこか道具感や生活臭が強くて、相応の固定費を払ってまで所有するという気にはならなさそう。道具であれば必要な時にその都度借りればいいかなと思ってしまいます。

今回の収穫は「売れていないからと言って必ずしも不出来ではない」ということと、「優秀な車と惹かれる車は必ずしもイコールではない」ということと結論付けられそうです。考えなくてもわかりそうなことを改めて感じさせたフィットには、ちょっとは感謝しないといけなさそうな気がしました。

*1:ホンダでは2モーター式のハイブリッドシステムを「e:HEV」と呼び、グレード名でもハイブリッドではなくそちらを使っていますが、当記事では「ハイブリッド」という呼び方で統一します。

*2:装備しない仕様も存在します。

*3:ハイブリッド車ではエンジン回転数が表示されず、エネルギーフローの状況が選択できます。

*4:身長173cmの私のドライブポジションに合わせた場合。