沼津駅前を”ヒト中心の街”に作り替える社会実験「OPEN NUMAZU」と「週末の沼津」

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このブログでも何度か話題としている通り、沼津駅周辺では東海道線御殿場線の高架化事業が始動しており、それに向けた工事がすでに市内の一部で始まっています。*1県の方針に振り回され、10年以上もの間、停滞を余儀なくされた沼津駅付近の鉄道高架化事業ですが、長年の懸案であったはずの中心市街地の分断状態の解消に向けて、ついに動き出した格好です。

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高架化事業に合わせて、沼津駅を中心とした、沼津市中心市街地の再開発事業も計画されています。実は北口のBiviやロータリー、南口のイーラdeはその一環として整備されたものだそうですが、肝心の駅本体の事業が進展しないために、そこから先が全く持って動いていないのが実情です。

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紆余曲折を経て高架化事業を実施する方向になった2020年3月、沼津駅を中心とした中心市街地の再生を目的とした再開発の方向性を示すものとして、沼津市は「沼津市中心市街地まちづくり戦略」を策定しました。「沼津駅周辺の市街地を、ヒト中心の魅力ある場所へと再生し、多くの市民や来訪者が集い、交流し、住まい、回遊する都市の顔として再構築していく」としており、鉄道高架化で中心市街地の線路の南北が1つになることをきっかけに、街の姿を大きく生まれ変わらせる大事業を考えているようです。

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沼津市はここ数年、中心市街地の衰退に悩まされてきました。かつて「県東部の商都」と呼ばれた沼津駅周辺は、周辺地域への大型商業施設の進出やモータリゼーションの進展による都市機能の郊外化など影響を受けており、駅前の仲見世商店街を含め、シャッターが下りたままの店舗が増えつつあるほか、かつては大きな集客を誇ったであろう商業施設の閉鎖・解体も相次いでいます。駅前の「一等地」に位置していた西武百貨店は「ラブライブ!サンシャイン!!」のスタートを待たずして閉店し、2棟あったうち北側の建物は解体されました*2。南口にあり、上層階は閉鎖されていたものの低層階はモスバーガーなどが入居して営業していた旧富士急百貨店の沼津富士急ビルも2019年11月に閉鎖。

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また、イトーヨーカドー沼津店などが入居し、Aqoursのイラストの装飾などで楽しませてくれていたイシバシプラザも、2021年8月に閉店し、今やすっかり更地となってしまいました。西武百貨店以外は全て「ラブライブ!サンシャイン!!」が始まって以降に姿を消しており、アニメにより沼津市への来訪者が増えたと言われている一方、中心市街地の衰退には歯止めがかかっていないのが現状です。

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こうした状況を踏まえ、沼津駅周辺の中心市街地をヒトを中心とした街に再編し、都市の顔として再生すべく、「中心市街地まちづくり戦略」として、沼津駅付近の鉄道高架化事業と合わせて実施すべき施策が提示されています。現在の沼津駅前は広い道路が通るなど、どちらかと言えば車両通行の方が優先された作りになっており、人が集まり交流するようなスペースはあまり広く取られていません。北口こそ先行して駅前の整備が進められていますが、南口は特にそのような印象はなく、バス乗り場やタクシー乗り場、自家用車用の乗降場がある一方、歩行者向けには通行するための最低限の空間しか確保されておらず、駅前広場というものが存在しているとは言えない様相です。

そこで沼津市は、駅周辺の道路交通を高架化事業完成後に再編することを検討しています。現在のあまねガードと駅南側の旧国一通り、国道414号の三つ目ガードと北口の通りをもって「駅まち環状」を形成します。あまねガードと三つ目ガードは高架化後に片側2車線の道路に拡幅され、北口の通りと国道414号が接続されます。中心市街地における幹線道路を接続した「駅まち環状」をもって、通り抜けるだけの車の流動を駅の周辺から逸らせます*3

また、高架化により沼津駅自体がスリムな造りになり、現在よりも北側へホームが移設されることにより、南口側のスペースに余裕が生まれます。そのスペースを活かしてバス乗り場やタクシー乗り場、自家用車用の乗降場を再配置しつつ、歩行者の滞留やイベント等の多様な使い方・過ごし方に対応した駅前広場を作り出すようです。また、さんさん通り*4外堀通り*5の一部が再編され、車道を片側2車線から1車線に縮小したり、一般車の乗り入れを禁止したり、車道を廃止したりするなど、通過するだけの車の流動を「駅まち環状」に逃がす前提として、歩行者や自転車中心の交通空間を形成します。また、駅が高架になることにより、駅のコンコースが南北の駅前広場を結ぶ自由通路として機能することになるため、駅の南北間の行き来のしやすさが現在よりも飛躍的に向上します。それを踏まえて、現在南口に集中しているバス乗り場を北口にも分散させることにより、南口側の歩行者用空間をより広く生み出そうとしています。また、現在階段のみの地下道により横断している沼津駅南口交差点については、地下道を廃止して地上横断化することが検討されており、バリアフリーにも対応した改良もなされる見込みです。

交通の流れを再編して「クルマ中心の街」を「ヒト中心の街」に作り替えるにあたっては、その影響を念入りに調査し、机上では出てこない課題も洗い出す必要があります。それに当たっての社会実験として、「OPEN NUMAZU」というものが今年実施されました。

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沼津駅南口のイーラde前の街路の1車線を使って今年4月に行われたのが、「OPEN NUMAZU 2022 STREET」です。今ある道路の車線を減らし、イベントスペースや歩行者の空間に転用した場合の交通の流れへの影響を確認するほか、来訪者の行動変容の把握や市民の街づくりへの期待を高めるということも目的としてあったようです。

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街路の1車線にベンチやテーブルなどを配置し、通りがかった人が一休みできるようなスペースを作り出しました。その上で、その付近に飲食物等を販売する屋台も出店させており、人がどれだけ集まるかということも見ているような感じでした。クラフトビールの屋台も出店しており、「沼津の街のど真ん中の道の上でビールを飲む」という、かなり稀有な経験もできました。

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次いで今年の11月に行われたのが、「OPEN NUMAZU 2022 ARCADE」です。仲見世商店街を用いて実施された社会実験で、交通の流れの変容よりも、歩いたり過ごしたりしたくなる空間づくりを実践するものとされました。街の集客力をいかに高め、維持していくかというところは、新しい街づくりが終わってから長く続く課題になるはずであり、街のハード面だけではなく、ソフト面でもできることを探っていこうということだと考えます。

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こちらでも商店街の港側を中心に屋台が出展されていたほか、商店街の中にベンチやテーブル、植木鉢などが配置され、立ち寄りたくなるような空間づくりをやろうとしている様子がうかがえました。自転車の通り抜けについても、看板による注意喚起がいつも以上に強化されており、仲見世商店街を今まで以上に歩行者中心で通過するだけではない場所にしたいという考えが伝わってきました。

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今回注目されていたのが、今年5月末に閉店したマルサン書店仲見世店の建物が活用されたこと。今回限りとは思いますが、閉店以来約5か月ぶりに店のシャッターが開き、図書館で不要になった書籍の配布や社会実験についての説明パネルの展示などが為されれていました。閉店後特に動きはありませんでしたが、そこまで長期間にわたってそのままの状態で置かれるということも考えられないため、店内に入れたのはこれが最後だったのかもしれません。

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その他、沼津市では、空き家や空き店舗、公共空間等を用いた「リノベーションまちづくり」という手法にも取り組んでいるとのことです。こちらは沼津市主体ではなく、民間による取り組みを沼津市がサポートするという形になります。例えば、昨年4月に閉校した内浦小学校のプールで海ぶどうの養殖が行われるというのもその一環です。新しいものを作るのではなく、もとからあるものを手直ししつつ活用していこうという発想で、それこそ海ぶどうの養殖のような新たな産業の振興と地域社会の再生を図ることを目的としています。

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沼津駅周辺での例を挙げると、沼津駅南口の中央公園で冬季を除き毎月第一土曜日に開催されている「週末の沼津」があります。中央公園に飲食や雑貨の屋台が出展するほか、遊具なども展開され、普段は人もまばらな中央公園を、老若男女問わず集まるような空間に生まれ変わらせようということを試しているようです。

中心市街地まちづくり戦略」の中では、中央公園からあゆみ橋を経て香貫山方面にかけての一帯に散策路を設けることが検討されています。歩行者や自転車にとって快適な空間を設けようというものですが、その中にも行きたくなるような場所やイベントを設け、街の変化だけではなく人々の行動変容も促し、市街地の活性化を図ろうとしているとみて取れます。

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これまでにとり上げた一帯は、私のようにラブライブ!サンシャイン!!をきっかけとして沼津を訪れる人にとっては、コラボ企画のあるお店や施設以外はどうしても素通りしてしまいがちな地域です。特に車で沼津を訪れた場合には、沼津の中心市街地は車で素通りしてしまうことも多いはず。来年市制施行100周年を迎える沼津市ですが、駅の高架化という大事業をきっかけとして、中心市街地を「行ってみたい場所」に変容させるべく、これからもさまざまな取り組みがなされるはずです。個人的には、クラフトビールの屋台が出ていたのが魅力的だったので、「週末の沼津」が来年の春に再開されるのが今から楽しみです。

*1:沼津貨物駅を現在地から原駅付近へ移設する工事が始まり、その後車両基地の移設工事や駅付近の鉄道高架化へ着手する見込み

*2:南側の建物は沼津ラクーンとして現存

*3:沼津市が2018年に実施した調査によれば、沼津駅南口を通過する車両のうち、東西からの交通の約8割と南北からの交通の約7割は通過交通であると推計されるとのこと

*4:沼津駅南口と沼津港を結ぶ道。

*5:あまねガードと三つ目ガードを結ぶ道で、沼津城の外堀の位置を通るためにその名前が付いた模様。