2022年12月の Liella! 3rd LoveLive! Tour ~WE WILL!!~ 宮城公演の際、せっかくならということで、宮城県内を軽く観光していました。
1日目の公演は現地のチケットが取れなかったこともあり、仙台市内にある「宮城峡蒸溜所を見学しました。その様子は上記の記事の通りです。
2日目も開演まで時間があったため、朝から宮城県内を観光することにしました。海沿いを列車で北上。その際利用したのが、こちらの「仙石東北ライン」です。
仙石東北ラインは、仙台駅と石巻駅を結ぶ列車系統の名称です。東日本大震災からの復興支援を目的として、2015年5月30日に運行を開始しました。イメージとしては、首都圏を走る「湘南新宿ライン」や「上野東京ライン」に近いもので、既存の路線や連絡線等を経由して結ぶ列車となります。仙石東北ラインには「特別快速」と「快速」列車があり、仙台駅と石巻駅を、それぞれ1時間以内で結んでいます。
仙石東北ラインが開業する前から、仙台駅と石巻駅の間には、仙石線というJR東日本の路線が走っていました。仙石線は、あおば通駅から東北本線よりも海に近い場所を通り、石巻駅に至る路線です。元々「宮城電気鉄道」という私鉄として開業した路線で、戦時中に国鉄が買収し、そのままJR東日本に引き継がれました。そうした歴史的な経緯もあり、電化区間のほぼ全てが交流電化となっている東北地方において、仙石線は直流電化となっています。使用されている車両も伝統的に首都圏から移籍してきた車両が多く、現在はかつて山手線などで使われていた205系電車が走っています。
仙石線にもかつて快速列車が存在し、仙台市と石巻市の間の速達輸送も担っていました。しかしながら、仙台駅に近い区間は駅間距離が短い上、追い越し可能な設備を備えた駅が少ないため、快速列車を増発することが難しい状況でした。
地元の自治体からは、「仙台駅と石巻駅を1時間以内で結ぶ列車が欲しい」という声が古くからあったと言われています。そうした要望を受けて、JR東日本も30年以上前から、仙石線と東北本線を連絡線でつなぎ、東北本線の仙台駅から仙石線の石巻駅を無ずぶ列車を走らせられないかということを検討していたようです。東北本線は駅間距離が仙石線よりも長く、停車駅の数も少ないため、その分列車の所要時間を短くできることが見込まれました。しかしながら、東北本線と仙石線では電化方式が違うため、車両や電気設備が大掛かりになり、費用も掛かることが見込まれました。
天気になったのは2011年の東日本大震災です。沿岸部を走る仙石線は津波で甚大な被害を受けました。被災から全線復旧まで4年以上を要した仙石線に対し、仙台と石巻を結ぶ高速バスは地震発生から程なくして運行を再開し、鉄道に代わる交通手段として、利用客も増えたそうです。また、仙石線の沿線には震災で壊滅的な被害を受けた地域も少なくなく、中には高台移転等を強いられた地域もありました。仙石線の全線復旧をアピールすることと沿線地域の復興を支援することを目的として、仙石東北ラインの開業にこぎつけたわけであります。
技術面でのハードルが下がったというのも大きなポイントです。2010年代にもなると、従来型のディーゼルカーではなく、蓄電池の電力も用いて走るハイブリッドディーゼルカーの技術も確立されていました。ハイブリッドであれば、電源の違いも関係なく、また少ない環境負荷で直通列車を走らせられるということで、専用のハイブリッドディーゼル車「HB-E210系」が登場しました。
連絡線は2路線が最も接近する箇所、東北本線の塩釜駅~松島駅間と仙石線の松島海岸駅~高城町駅間に設けられました。ハイブリッドディーゼル車のHB-E210系だけが走行するため、連絡線は非電化となりました。直流電化区間と交流電化区間を接続する場合、デッドセクションと呼ばれる区間を設け、その区間内で車両の電源を切り替えることがほとんどですが、ハイブリッドディーゼルであれば架線がある必要もないため、簡素な設備で済ませることができます。
今回乗車したのは、仙台発石巻行きの特別快速と石巻発仙台行きの快速でした。特別快速の所要時間は49分で、途中停車駅は3駅とかなり速い列車でした。一方の快速列車の所要時間は58分で、東北本線内は各駅に停車し、仙石線内もこまめに停車します。
HB-E210系の走行音は自動車のハイブリッドにかなり近い感覚です。発進直後は蓄電池の電力だけを使うため、ごく普通の電車のような音がします。しばらくして速度が上がってくると、発電用のエンジンが始動。エンジンと発電機で起こした電力も併用し、モーターを駆動させて加速します。減速する際には回生ブレーキも併用し、発生した電力を蓄電池に充電します。メカニズムはハイブリッド車と大体同じと言えるでしょうか。100%モーター駆動という点では、日産のe-POWERが一番近いと思われます。車内にはエネルギーフローモニターが付いており、走行モードをリアルタイムで見られるようになっています。
車内の座席配置は基本的にセミクロスシートとなっており、ボックスシートとロングシートが備わっています。ハイブリッドシステムを内蔵した機器室が車内にあり、その付近は座席がボックスシートではなくロングシートになっています。お手洗いの設備も2両編成のうち仙台寄りの車両に設けられています。
東北本線内は列車とホームとの間に段差が生じてしまうというのも特徴です。仙台駅周辺の東北本線の駅は、ホームの高さが低くなっています。東北本線の普通列車として走っている車両には、ドア付近にステップが設けられていたり、車両の床の高さがホームの高さに合わせて低く設計されていたりしています。HB-E210系は仙石線の駅のホームの高さに合わせて作られているため、東北本線の駅に停車すると大きな段差が生じてしまうというわけです。
また、車内には、津波警報発令時の避難方法についての案内もありました。仙石線内では海に近い区間もあるため、将来の地震発生時に備え、車外に出る方法や避難場所へ向かう方法などが書かれています。
仙台に遊びに行ったついでに、仙台より北の石巻方面まで気軽に遊びに行ける移動手段として、仙石東北ラインはかなり便利な路線です。ディーゼルハイブリッドというなかなか珍しい鉄道車両なので、それを体験できるという意味で面白い列車でもあります。ライブの遠征や旅行のついでに、少し変わった乗り物に乗ってみるというのも、良い経験になるかもしれないので、個人的にはおすすめです。Liella!のライブツアーでは今後も宮城県内での公演があることは十分考えうることなので、その際に乗ってみてはと思います。