【沼津】閉店から3年… 「イシバシプラザ」の跡地ってどうなるの?

1.開店から約3年も、跡地は更地のまま

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沼津駅の北、沼津市島本町にあった商業施設「イシバシプラザ」が閉店してから、今日でちょうど3年となります。1978年に開業した同施設は、「イトーヨーカドー沼津店」が中核テナントとして入居し、西武百貨店沼津店(2013年閉店)などとともに、「県東部の商都」として沼津市中心部の商業活動の中核を担っていましたが、施設の老朽化等の理由から、2021年8月22日に閉店しました。「ラブライブ!サンシャイン!!」のアニメなどに登場することはありませんでしたが、キャラクターの装飾などのコラボ企画も行われていた施設でもあり、閉店を惜しむ声は多方から聞かれました。

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建物は閉店後間もなく解体工事が開始され、駅北でも一番大きい規模の商業施設だったイシバシプラザは、ほどなくして姿を消しました。隣接していた旧市民体育館も、新体育館の完成・供用開始に伴って2023年に閉鎖・解体されており、閉店から3年経った今なお、一帯には広大な更地が広がっています。

2.「有力な新規出店候補」は上がりつつも…

イシバシプラザの跡地は、現時点で明確な用途が明らかにはされていませんが、これまでに有力な新規出店候補の名前が挙がってきたことが全くないわけではありません。昨年10月の静岡新聞の記事によれば、大手流通業の進出が見込まれており、この記事が書かれた段階では、出店に向けた交渉が進んでいたようです*1

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イシバシプラザは沼津市中心市街地における大型商業施設として、周辺市町からもかつては集客してきただけではなく、駅北地域住民の日常的な買い物場所として、いわば「生活に根差したインフラ」のような役割も担ってきました。閉店に伴い、周辺地域では「買い物難民」となる人も増えているようで、地元自治会による「移動販売」などの取り組みも行われています*2。そうした地域の課題も勘案したうえで、商工会議所などが参画する会議体において、跡地活用に向けた議論が行われているようです。

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しかしながら、こうした「議論」が閉店以来関係者間で重ねられてきたものの、3年経った今なお具体的な方策は全く明らかになっていません。有力視されてきた「大手流通業」についても、資材・建材費や人件費の高騰、物販の不振に伴うテナント誘致の難航などがあり、構想が進展していないとの報道がありました*3

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国内流通業大手の1つであるイオングループにおいても、大型ショッピングモールの新規出店計画の先送りが計画されています。同社では、1998年度以来26年ぶりに、ショッピングモールの新規開業がゼロとなるようです。要因には同社もやはり「人件費高騰・人材不足」と「資材価格高騰」を挙げています。来年に迫る大阪・関西万博や九州を中心に進出が相次ぐ先進半導体の工場など、各地で人手が必要になる大型プロジェクトが相次いで進行しているほか、今年4月から始まった残業時間の上限規制適用もあり、建設業でも労働力不足が深刻化しています。資材価格の高騰も相まって、大型施設の建設コストが高騰してしまっているようです。それらに加えて、コロナ禍を経て大型ショッピングモールにおける顧客の行動様式にも変化が生じ、滞在時間が短くなったために投資に見合う集客や収益を稼げるかが不透明になっているという情勢もあり、新規出店ではなく既存施設のテコ入れによる収益改善に舵を切っているようです*4

先に挙げたのは小売業における1社の例ですが、大型施設を建設できる業者やその人員はどの企業でも同じようなところに行きついていくと考えると、どんなデベロッパーが主体になるとしても、資材や人件費の高騰と人員不足は避けられない問題です。何ができることになったとしても、建設コストが高騰したり、工期が伸びてしまったりすることは、避けられない問題であると考えるのが適切でしょう。最有力候補となった大型のショッピングモールについては、同じ沼津市内の「ららぽーと沼津」のほか、お隣清水町の「サントムーン柿田川」など、近隣市町を含めて「競合相手」となりうる施設が複数あるため、出店する企業としても、「高騰する建設コストを回収できる見込みがあるのか」という点で、及び腰になっても致し方無いところがあるはずです。かつて「県東部の商都」とも称された、沼津駅を中心とした沼津市中心市街地における、かなり久しぶりの大型商業施設の進出も期待されましたが、その実現は少し遠のいたように見えます。

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3.そもそも、沼津における「中心市街地」の”役割”とは?

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沼津駅の周辺では、沼津駅付近の鉄道高架事業の本格化も相まって、複数の地区で再開発事業が動き出していると報じられています。特に駅の南側ではその動きが活発で、町方町と通横町にまたがる「アーケード名店街」では建物の建て替えを伴う再開発事業が一部で始動し、今月から既存の建物の解体が始まります。また、2022年5月末に閉店した「マルサン書店仲見世店」の跡地周辺の仲見世商店街・大手町商店街の一区画でも、商業施設や住居、駐車場などが入居する複合施設の建設が始まるようです。前者は2028年、後者は2030年ごろの完成が見込まれています。両者とも低層階が商業施設となり、上層階はマンションとなるようで、建物の様子は沼津駅南口の「イーラde」に似たものになるようです。特に仲見世・大手町の再開発については、高さ90メートル、地上25階建ての建物が建つようです。25階建てとなるうち、3階以上が住居となるため、駅近のタワーマンションとして、相当な規模の物件になることが見込まれます。

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沼津駅の南側は、北側よりも古くから市街地として発展してきた歴史もあり、建物の老朽化が北側以上に深刻であるという問題もあります。経営者や土地の所有者の高齢化も年々深刻さを増しており、次世代に向けた振興策が急務となっているのが実情です。先述の2か所も含めて、駅南側では再開発に向けた準備組合が複数設立されていたり、そうでなくても再開発を検討している地権者が更にいたりすると見られていて、街の様子が今後大きく変わっていくことが考えられます。経済情勢などに左右されることもあるかとは思いますが、慣れ親しんできた風景が姿を消していくことも、この先決して少なくないことは確かでしょう*5

一方で、すでに始動しつつある2件については、どちらもよく似た形態の「再開発ビル」の計画となっています。「県東部の商都」として、西武百貨店をはじめとしたデパートが複数立ち並んでいた街ではあるものの、大規模なビルも主体となるのはマンションで、商業施設としてはかなり小規模なものになることが見込まれます。マルサン書店仲見世店の跡地にしても、元が2階よりも上のフロアまで営業していたことを考えると、商業施設としては縮小してしまっている感が否めません。こちらには、沼津市における「中心市街地の役割」が、長い時間をかけて大きく変化したということが考えられます。

かつては鉄道やバスで駅の近くに来ていた買い物客も、自動車への移行で郊外の大型商業施設に足を運ぶようになったというのが最も大きな変化点でしょう。シャッターが下りた商店などの跡が目立つ中心市街地の様子を引き合いに出して沼津市の衰退を憂う声は随所で毎日のように聞かれますが、他方で郊外の「ららぽーと沼津」に行ってみると、館内は多くの買い物客でにぎわい、駐車場や周辺の道路には「沼津」ナンバーに留まらず、「富士山」「伊豆」「静岡」といった近隣他地域のナンバープレートを付けた車が多く見られます。ららぽーと沼津については、自動車だけではなく、沼津駅などから路線バスでも向かうことができるため、車を持たない人にとっても便利に使える商業施設として機能しています。私自身、沼津駅ららぽーと沼津を結ぶ路線バスはよく利用しますが、特に休日の日中は混み合うこともあります。場所や形は変わっても、沼津市静岡県東部の商業活動において重要な街であるような様子は、実は今日でも見ることができます。ららぽーと沼津の近隣では、こちらは噂の域をまだまだ脱さないものの、別の大型商業施設が出店するという構想もあるようです。国道一号線のバイパスに面しているだけではなく、東名高速道路の愛鷹スマートインターチェンジからも簡単にアクセスできる上、将来的には伊豆縦貫自動車道の愛鷹インターチェンジも近くに完成するとされています*6。大都市圏以上の「自動車社会」となっている静岡県東部において、いわば「令和版・県東部の商都」という様相を見せています。

また、沼津駅から近い中心市街地とされる一帯が、近年では「住宅地」として注目されているということも、この地域における変化として注目すべきところでしょう。東海道新幹線が停車する三島駅までは、沼津駅からは東海道線で1駅約4分であり、新幹線が停まらないということはあっても、大都市圏への交通の便はかなり良いと捉えられます。三島駅から東京駅までは、各駅停車の「こだま」を利用した場合でも、新幹線なら所要時間が1時間を切るため、東京や横浜に職場がある人にとっても、沼津駅に近い地域は、いわば「職場への通勤圏内」となるエリアになると思われます。加えて、コロナ禍を経てテレワークも以前より一般的になった今、必ずしも毎日出社する必要がないという人も増えたため、「東京都心まで新幹線利用で1時間圏内」というのは、いわゆる「テレワーク移住」を検討する上で、かなりの好立地になっているものと考えられます。実際のところ、沼津駅周辺の居住人口は近年堅調に推移しているようで、「イーラde」高層階のマンションにおいては、中古物件ながら引き合いが強まっているとの報道がありました*7

4.「駅近の好立地」更地のままだと勿体ない!

静岡新聞(2024)の「社説(7月19日)沼津駅周辺再開発 南北一体化の構想示せ」では、すでに具体的な計画が見え始めている2か所について、「低層階に店舗と上層階にマンションを配置する高層建築で、いずれも酷似」しているとし、「仲見世商店街をはじめ古き良き『昭和ロマン』の雰囲気を残す町並みから、個性のない景観ばかりになるのは避けたい」としています*8。確かに、かつて活況を呈していた個性ある街並みが再開発を経て無個性な高層建築に置き換わってしまうということは、沼津の街にとって街の特色という面で真にプラスとなりえないのではないかという指摘は、十分に当たるものといえるでしょう。昔ながらの商店街の雰囲気を残しつつ、それを街としての1つの資源として活用することも、中心市街地の活性化策として取ることができる1つの選択肢であることは間違いありません。

しかしながら、かつて担っていた「商業の中心地」としての役割がすでに同じ市内でも郊外に移転してしまっている以上、昔ながらの商店街をそのまま再現するという路線の街づくりが、必ずしも正攻法であるとは言い難い状況なのではないかと考えます。個性的なお店こそ、地元客だけではなく観光客にも支持されるということも大いに考えられますが、そうでなければ郊外の大型商業施設やそのテナントとの過酷な競争にさらされることは自明でしょう。先述の通り静岡県東部は「自動車社会」であり、そうなってすでに久しいという状況を鑑みるに、無料の大型駐車場が完備された郊外の大型商業施設の方が多くの人にとって「便利」であると感じるかもしれません。再開発を機に昔のような賑わいの姿や形をそのまま再現するというのは極めて難しく、むしろ街の活性化を思うように図ることができず、「負の遺産」だけが後世に残ってしまう可能性も、現状では否定できません。

そう考えたときに、沼津駅から近い「イシバシプラザ」の跡地が仮に以前と同じような大型の商業施設になったとしても、それが果たして中心市街地活性化に向けた「起爆剤」になりうると断言できるのでしょうか。買い物難民の問題が起きてしまっている以上、その解決は街づくりの面で無視できない事柄かもしれず、大型の商業施設にスーパーマーケットをテナントとして入居させるというのが、一見すると正攻法のように見えます。しかしながら、大型の商業施設はそこだけで訪問した人の行動が完結してしまうことが考えられやすく、施設以外も含めた中心市街地の活性化につながるとは言い切れない部分もあります。駅から歩いて訪問する人だけではなく、車で来る人も決して少なくない以上、そうしたリスクは無視できないはずです。競合相手となりうる同様の施設が近隣にすでに複数ある以上、開店当初から厳しい競争を余儀なくされることは確かであり、建設コストの高騰や人材不足が深刻になっている状況下においては、新規に参入する事業者がなかなか現れないということもありうるでしょう。そもそも、買い物難民問題の解決を図るのであれば、大型の商業施設が最適解ともいえないとも考えます。多くの場合、買い物難民に陥りやすいのは高齢者や体が不自由な人であり、そうした方々にとっては、売り場面積が広いお店はかえって使いにくいものになるかもしれません。駅の北側にも老朽化した建物が立ち並ぶ区画はいくつかみられるため、そうした場所の再開発で、そこまで大きすぎないスーパーなどを誘致した方が、地域の人々の生活に即している可能性もあるのではないかと考えます。

とはいえ、現状の更地のまま放置してしまうというのは勿体ないということも確かでしょう。中心市街地に広大な空き地がそのままあるというのも、街を訪れた人が良い印象を受けるものではなく、空き地に不法に侵入する人が出てくる可能性もあり、治安への悪影響も懸念されます。鉄道高架事業の完成もあと15年以上先ではあり、街の将来の骨格が見えてくるまで塩漬けにしてしまうのも、それはそれで時を逸してしまうリスクが大きいように思えます。しかしながら、その活用方法はいかなる方面に向かう場合でも慎重に検討がなされるべきであり、拙速な議論は避ける必要があるとも考えます。

TwitterなどのSNS上では、跡地に関する関心は未だに高いようです。大型商業施設も良いという人もいれば、他の施設を待望する声も多く聞かれます。中でも「アスルクラロ沼津のホームスタジアムになるようなサッカースタジアムを作ろう!」という声が大きいようです。私自身、駅の近くで買い物が全て完結できるようになったらいいなという思いの方が強かったのですが、街の活性化という点においては、沼津の周りのもありふれているようなショッピングモールよりも、沼津をホームとして活躍するスポーツクラブを応援できるような場所があった方が街が盛り上がりそうであり、そもそも私もそちらの方が楽しめそうな気がしてきました。

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サッカースタジアムが交通の便が良い駅の近くにできれば、アスルクラロ沼津の試合観戦における「試合会場へのアクセス」という障壁が無くなると考えています。車だけではなく電車でも行ける立地であるため、遠方に住むサポーターやビジターとなるチームのサポーターでも、新幹線と在来線を乗り継いで行けるようになれば、混雑するシャトルバスを利用する必要が無くなったり、駐車場や渋滞の心配をしなくて済むようになったりするので、より気軽にスタジアムで観戦できるようになるはずです。また、現在の愛鷹のスタジアムでも、沼津やその周辺のクラフトビールなどが販売されていることがよくあるようですが、車ではなく電車でもアクセスできる場所にできれば、試合を見ながら気兼ねなくビールを飲めるという人が、今よりもっと増えるのではないかと思っています。クラフトビールのブルワリーが多く所在するという特色を活かして、各ブルワリーのビールを飲み比べできるコーナーを常設するのも面白そうです。北海道の「エスコンフィールド」のようなものになりそうですが、そうした他の都市における実例を参考にするのも、今の沼津に求められているのではないかと感じています。

また、遠方からの来客が多数見込まれたり、周辺市町も含めて多くの観客が来場すると考えられたする大型施設ができれば、それに合わせた店舗や施設が周辺に増え、中心市街地全体の活性化が図られることも想定できるはずです。遠方在住のアスルクラロ沼津サポーターやビジターチームのサポーターが、今までよりも多く来るようになると見込まれたら、その方々を受け入れる宿泊施設も需要が増えると考えられます。試合観戦後に食事を済ませてから帰るという人が増えれば、飲食店の需要も出てくるはずです。アスルクラロ沼津には、試合に勝った後はお寿司を食べる「勝利のお寿司」という文化もあるようですから、そうした背景から伸びるものもあるのではないかと考えています。

コンテンツツーリズムの成功や移住者の増加など、喜ばしい話題も多い沼津市ながら、中心市街地の空洞化などの課題が山積しているのが現状です。そうした現状を憂いで、「沼津はダメだ」と口にする人は、ネット上でも今なお少なくないように感じています。とはいえ、現状を嘆くだけでは何も変わらないし、現状維持すらできなくなることは火を見るよりも明らかでしょう。街の経済活動が縮小してしまえば、将来的には自治体の財政が悪化してしまい、行政サービスの低下にもつながってしまうはずです。「沼津の未来をどうしようか?」そうした前向きの議論が今後も進み、「駅近の広大な土地」という滅多にない「資産」とも見ることができるイシバシプラザの跡地が有効に活用され、沼津がより楽しめる街に進化していくことを願っています。

*1:静岡新聞(2023)どうなる?JR沼津駅北口 官民議論、11日に初会合 中心街再生へ南北一体化 不可欠 

https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1333044.html 2024年8月16日閲覧

*2:静岡新聞(2022)沼津イシバシプラザ閉店から1年余 地元自治会、買い物弱者支援へ 移動販売「町の駅」29日初開催 

https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1138420.html 2024年8月16日閲覧

*3:静岡新聞(2024)社説(7月19日)沼津駅周辺再開発 南北一体化の構想示せ 

https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1515139.html 2024年8月16日閲覧

*4:日本経済新聞(2024) イオンモール、26年ぶり新規出店ゼロ 人手不足や資材高 

https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1515139.html 2024年8月16日閲覧

*5:静岡新聞(2023)どうなる?JR沼津駅北口 官民議論、11日に初会合 中心街再生へ南北一体化 不可欠 

https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1333044.html 2024年8月16日閲覧

*6:国土交通省 中部地方整備局 沼津河川国道事務所(2024)ホーム―道路事業―伊豆縦貫自動車道 

https://www.cbr.mlit.go.jp/numazu/road/izu_jukan/ 2024年8月16日閲覧

*7:静岡新聞(2023)沼津駅南に再開発ビル 店舗や住居、テナント誘致へ 地上20階建て規模  https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1179826.html 2024年8月16日閲覧

*8:静岡新聞(2024)社説(7月19日)沼津駅周辺再開発 南北一体化の構想示せ https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1515139.html   2024年8月17日閲覧