沼津から東京の実家に帰った時のこと。新宿駅からかれこれ30分くらい京王線に揺られていましたが、電車の中で目に入った広告の多くは転職サイトのものでした。新卒入社から3年以内に3~4割の人が離職し、気軽に転職をしてしまうこの時代、転職エージェント*1や転職スカウトサービス*2が乱立し、「みんなどこかを使っている」というような風潮すらあるようです。ここ数年で一気に身近になった転職を、オタク目線で考えてみました。
1.スマホ1つで転職できてしまう時代?
テレビを見ていても転職サイトのCMが四六時中流れているこのご時世、「職を変える」ことがとてもカジュアルなものになってしまっているようにも感じられます。SNSにおいても、インフルエンサーのようなアカウントがキャリアについて耳障りの良い話を流し、Twitterであればツリーで転職エージェントのサイトのリンクを貼り付けて、仕事について少しでも迷っている人を軽率に転職へと誘導しているような様子は日々散見されます。
見出しにもある通り、今やその気になればスマートフォン1つで転職活動ができてしまうような世の中になってしまいました。スマートフォンから転職エージェントに登録し、スマートフォンで履歴書と職務経歴書を作成し、スマートフォンのカメラ経由でアドバイザーと面談して、アドバイザーに言われるがままに企業にスマートフォンの画面で応募。企業の採用担当者との面談もスマートフォンからリモートで済ませるどころか、企業によっては最終面接すらWebで行ってしまうところもあるほか、入社前の手続きもスマートフォンで進めることができます。手続き上の不明点もチャットなどで出来るため、対面はおろか電話やメールでの問い合わせも不要なこともあります。
転職活動の末に入社するかもしれない会社に一度も足を運ぶことなく、そしてその会社の人と一度も合うことすらなく、スマートフォンの決して大きくない画面の中だけで転職活動が完結することが、空想上の話では全くない時代になったとも言えます。職業選択の自由は憲法でも定められた国民の権利であり、誰もが希望する職業に就けることはあるべき姿かもしれませんが、職業とは同時に人として生活する上での土台になりうるものであり、どこでどんな仕事をしたかということは、その後の職歴の形成にも関わるものでもあります。数十年にもわたる転職後の人生を左右する活動が、スマートフォンで軽率に済ませることができてしまうような、ある意味でとても恐ろしい時代にもなったとも考えることができます。
2.転職のメリットとデメリット
そんな大転職時代とも言える今日この頃ですが、そもそも転職とは何のためにするのでしょうか。もっと言えば、転職をしてどのような良いことがあるのでしょうか。転職することが目的ではないはずで、ほかの何らかの目的があるからこそ、皆さん転職したいと思うはずであり、実際に転職に向けて動くはずです。
転職することのメリットをまず考えてみたいと思います。1つ上げられるとすれば、会社を変えることによって、収入が増えるかもしれないということが挙げられます。それまでの経歴やスキルが高く評価されれば、新しい会社でより良い給料をもらいながら働くことができるかもしれません。2つ目があるとすれば、自分にあった風土の会社で働くチャンスをもう一度得られるということがあるのでしょうか。もっと成長したいという人であれば、より周りと切磋琢磨できるような会社に移ることができるはずであり、逆にもう少しゆるくまったりと働きたいという人であれば、仕事の内容もそれ相応の会社に行けるチャンスを得られるものと思われます。それまでの会社で不満に感じていたり、何か違うと思っていたりすることを、思い切って変えられるということは、転職のメリットなのかもしれません。
オタク目線で見た転職というタイトルの通り、オタクとしての転職のメリットを考えてみます。1つ目は趣味の時間をより長く捻出できる仕事に移ることができるということでしょうか。残業や休日出勤が多く、余暇がほとんど取れないという人が、転職によって余暇が生まれ、趣味に割ける時間が生まれるということは容易に想像することができます。有給休暇も取りやすい職場であれば、イベントにも日程にゆとりをもって参加できるようになります。2つ目には、収入が増えることによって、ライブやその他イベントに参加したり、グッズなどを買ったりする予算を増やせるということがあるかもしれません。薄給では生活するのに必死で、趣味にかけることができるお金がほとんどなく、それを転職によって解決できるという可能性は確かにあります。
しかしながら、転職にはもちろんデメリットも存在します。当然ながら転職という行為には当然ながら「退職」というものも付いて回ります。一度でも転職を経験するということは、同時に退職も経験するということでもあります。すなわち「会社を辞めたことがある人」という、見方次第ではネガティブな実績を経てしまうということです。転職回数が少なかったり、長年にわたって勤め上げた実績があったりすれば話は別ですが、あまりに短期間での離職が続いてしまうと、長続きしないという印象を抱かれてしまうことも一般論として存在します。転職がその後のキャリアにおいてマイナスに作用する可能性が大いにあるということです。軽い気持ちで転職した人が、その後何らかのやむにやまれぬ事情で転職を余儀なくされた際、過去の職歴で不利になってしまうということは、今の日本ではやはりまだ根強くあるようです。また、転職で年収を上げることができるという考え方は、必ずしもすべての場合において当てはまるわけではないということは確かです。働きやすさや負担の軽さで会社を選んだ場合、収入や福利厚生などの条件が転職前よりも悪くなってしまう可能性もあります。
オタクにとっての転職のデメリットは、メリットの裏返しなのかもしれませんが、一番はやはり経済面のものが大きいです。収入が減ってしまう可能性が存在する以上、趣味を転職前以上か、あるいは同じくらい楽しめたりするかということは、確実であるとは言い切れないでしょう。短期での離職や転職を繰り返してしまうと、より良い仕事に巡り合うどころか、それまでと同等の仕事に就くことのハードルも上がってしまいます。転職を経て趣味が充実すればよいのかもしれませんが、それを成功させることと失敗してしまうこととは、紙一重であるとも言えるのではないでしょうか。
3.転職活動はどう進めようと大変
こんな記事を書いている私自身、3年前に転職活動を経験しています。前職に在籍しつづけながらの転職活動を行い、約2ヶ月で今の会社の内定を獲得しました。実はその前にも、転職活動を初めてから1ヶ月ほどのタイミングでも、別の会社の内定をいただくことができていました。そちらの会社の内定を受諾しようと考えてもいたものの、待遇面で折り合いがつかず、その会社の内定は辞退しました。新卒での就職活動と転職活動は様相が全く異なりますが、その当時でも会社を選ぶ余地はまだあったみたいです。
とはいえ、仕事をしながらの転職活動は、主に日程の面で大変でした。仕事がある平日に面接を受けに行かなくてはならないため、有給休暇を取ったり、フレックス制度を使って会社を早上がりしたりして、そのお休みの日や早く帰ることができた日にできるだけ多くの会社の面接を詰め込む必要がありました。応募先の会社も、いつでも面接の対応ができるというわけではないため、転職エージェントの担当者には相当無理を言いつつ、日程調整をぎりぎりのところでやってもらっていました。それ以外の日でも、土日のような休みの日や平日の仕事の後も、履歴書や職務経歴書の見直し*3や選考日程の調整などに追われるなどしており、気が休まらない2ヶ月間を過ごしていました。
一方で、転職活動を始めるにあたり、まず最初に勤めている会社を辞めてしまうという選択肢もあります。そうした転職活動の進め方でも、日本には失業保険という制度もあるため、ある程度の水準において生活が保障されている状況下で、仕事のスケジュールに左右されることなく、転職活動を進めることができます。失業保険に頼らなくても、転職活動の合間でもできるようなアルバイトやパートの仕事をすれば、正社員よりも時間にゆとりを持たせつつ、生活費はなんとか稼ぐことができます。しかしながら、フルタイムの正社員よりも収入が少なくなってしまうことは否めず、所帯を持たずに実家などを拠点に転職活動を進めるのであればまだしも、家族を養う必要があったり、実家に頼ることなく転職活動を進めなければならない場合、そうした手段は経済的にも非常にハイリスクであると言えます。また、職歴に空白期間が生まれてしまうということが、将来また転職することになった場合にマイナス要因として働いてしまう可能性もあるということにも、十分留意するべきです。
私の経験談を踏まえても、時間や心理的な余裕があまりなかったという点で、例えば趣味を楽しむ時間が少なくなってしまったり、残った時間を休息に充てることが増えてしまったりするので、在職中に転職活動を行うことはあまり強くはオススメできません。仕事を辞めて転職活動を行っていたとしたら、金銭的な面で苦しい思いをしていたことは想像するに容易く、お金がなくて趣味を楽しめなかったり、金銭面の余裕の無さが心理的な余裕の無さにつながってしまったりしていたかもしれません。どう進めたところで、転職活動は新卒の就職活動よりもずっと大変です。オタクにとって趣味は必需品になりうるので、それを楽しむ余裕がなくなってしまうということは、経験からも感じています。
4.その転職は本当に必要ですか?
転職の大変さを書き連ねてしまいましたが、転職そのものを否定するつもりは全くありません。何度も繰り返す通り、私自身が転職の経験者であり、転職によってこれまでのところ収入を増やすことができていたり、それによってできることも増えていたりするので、そうした経験をしつつ転職を否定することはできないと考えています。また、世の中にはやむにやまれぬ事情で転職をせざるを得ないケースも往々にしてあるので、そうした場合は転職活動を積極的に進めるべきです。勤め先が長時間労働やハラスメントが横行しているブラック企業で、このまま在籍し続けると心身に不調をきたしかねないというようであれば、どんな手段を使ってでも転職することを強くお勧めします。
しかしながら、なんとなくの理由での転職であれば、履歴書や職務経歴書を書き始める前に、今の会社がなぜダメか、良いところはないか、捨てがたいところはないか、救われたことはなかったかなど、転職に至る理由やその源流となるものを一通り棚卸してみる必要があるかもしれません。それは本当に転職をしなければならない理由になるのか、転職によってそれが全て解決するのか、そうしたものを全て洗いざらい整理して、転職をするか否かを決めるべきです。転職を考えるに至った真因を突き止め、その解決策をちゃんと精査しないと、転職した先でまた同じ壁にぶち当たってしまうと考えます。
5.経験者としても軽率な転職はオススメしません
転職を経験したオタクとしては、転職とはやはり決して小さくはないイベントであり、しっかり考え抜いてから行動に移るべきだと考えています。その結果が転職であったり、その他家族の問題などやむを得ない事情があったりした場合には、そうした転職までは否定するつもりは一切ないです。前半にも書きましたが、日本には憲法でも定める職業選択の自由があります。誰しもが好きな仕事をして、そしてそれを糧に幸せに生きていく権利もあるはずです。そのための転職であれば、むしろ進んでおすすめします。しかしながら、漠然とした不安や不満が動機になっているとすると、何がダメで転職活動をしているのか、何のために転職活動をしているのかということがあいまいになってしまい、いい結果は出てこないと思います。20代のうちに複数回の転職を経験する人もかなり増えているようで、日本でも近い将来転職が更に当たり前になる時代が来るのかもしれませんが、そうなればなるほど、何のための転職活動なのかをしっかり考えた方が、より良い結果になると考えます。
私自身、転職活動の結果は決して良いものばかりではあったとは言えません。入社初年度は算定期間の都合でボーナスの金額が減ってしまい、ボーナスが出たら買おうというものがあまり買えなかったということがありました。転職に伴い住宅関連の制度ががらりと変わって、独身寮を出て全額自己負担で賃貸のマンションを借りることになり、住居にかかる金額が爆増したということもありました。仕事の量も転職前より実は増えていて、給料も上がり残業代もいっぱいもらえてはいるものの、会社での拘束時間もかなり長く、平日は沼津でほぼ寝るだけという生活が、かれこれ2年以上続いています。そして何より、前職で退職の意向を上司に伝えるときは*4、なんだかんだお世話になった方であったこともあり、面接で難しい質問に答える時以上に気が重かったと今でも覚えています。
繰り返しにはなりますが、この記事において転職活動の全てを否定する意思はなく、必要な転職活動は是非とも進めていただきたいです。しかしながら、転職活動は活動中に相当なコストがかかってしまうほか、活動後にも大なり小なり大変なことがいくつもあるはずです。経験しないことに越したことはなく、もし転職活動をすることになっても、その回数はミニマムであるべきだと考えています。普通の人にとってもそうですが、オタクにだって同じことが言えるでしょう。趣味を好きに楽しむには、仕事がどうあるのかが最適なのか、転職を目的にせずしっかり考えた方がよいと思います。