1.イベント概要
JR東海が沿線各地で定期的に催している「さわやかウォーキング」の企画として、「駿河湾から望む富士山と『内浦』」が、伊豆箱根鉄道駿豆線の伊豆長岡駅スタートにて、2024年3月16日(土)に開催されました。
今回のさわやかウォーキングはJR東海と伊豆箱根鉄道、そしてラブライブ!サンシャイン!!のコラボ企画として開催されました。昨年3月から8月にかけて実施されていたJR東海とラブライブ!サンシャイン!!のコラボ企画「沼津ゲキ推しキャンペーン!」以降、長年にわたりラブライブ!サンシャイン!!と深くかかわることがなかったJR東海が、駅構内などへの装飾や沼津駅周辺でのコラボイベント開催、さらにはイベントに合わせた臨時列車の運行など、ありえそうでなかった企画が次々と行われました。
ラブライブ!サンシャイン!!とコラボしたさわやかウォーキングも、昨年6月以来何度か開催されましたが、いずれも沼津駅から徒歩で行けるエリアでの開催にとどまっており、ラブライブ!サンシャイン!!の舞台の地のメインとなっている内浦での開催は、これまでありませんでした。
今回は伊豆箱根鉄道駿豆線の伊豆長岡駅を起点とし、伊豆長岡の温泉街や狩野川の放水路沿い、そして内浦の海沿いを通る約10㎞のコースにて開催されました。企画名にもある通り、富士山が見えるコースを歩き、春の内浦を感じるというようなイベントでした。
2.当日の様子
(1)狩野川と富士山を眺めながら伊豆長岡から内浦へ
伊豆長岡駅をスタートし、国道136号線と狩野川を渡ってからは、しばらく狩野川の土手を川の流れに沿って進みました。伊豆半島の天城山系から田方平野を通り、黄瀬川や柿田川などと合流しつつ駿河湾に向かって流れる狩野川は、太平洋側の河川としては大変珍しく、北に向かって流れる箇所が存在します。伊豆長岡のあたりは、まさに狩野川が北に向かって流れるところです。
狩野川に沿って歩いていると、先の方に見える山々の間から富士山が見えました。海沿いまで富士山はお預けかと思いきや、スタート直後からその姿を見ることができました。すそ野が大きく広がる姿が好きという人も多いかもしれませんが、山々の隙間からちょこっと出ているというのも、富士山の姿として一興なのではないかと思います。
しばらく進むと大きな水門が見えてきました。狩野川はこちらで本流と放水路の二手に分かれます。さわやかウォーキングでは、伊豆長岡から山をトンネルで貫いて沼津市口野地区へ流れる「狩野川放水路」の方へと進みました。
狩野川放水路は1965(昭和40)年に完成した大規模水路です。古くから氾濫が発生し、流域に度々大きな被害をもたらしてきた狩野川の治水のため、戦後まもない1951(昭和26)年に着工しました。工事途上の1958年に発生した「狩野川台風」により伊豆地方で大きな被害が発生したことを受け、途中2か所のトンネルを2本から3本に変更するなどの大掛かりな工事の末に完成した放水路ですが、最大で毎秒2,000立方メートルもの水を流すことができる能力を誇り、流域の人命を守る治水の要として機能しています。
途中で伊豆長岡の温泉街に逸れつつも、概ね放水路に沿う形で、海沿いの内浦へと向かいました。水害対策としての大規模な水路は全国各地にありますが、トンネルで山を貫くものはそれほど多くないでしょう。難工事になりそうな構想を思いつき、それを実現にこぎつけた先人たちの努力には頭が上がらず、またこの放水路がフル稼働するような水害が起こらないことを願うばかりです。
(2)駿河湾越しに富士山を眺めながら海沿いを西進
国道414号線の口野トンネルを抜け、放水路のトンネルが見える交差点から県道17号線に進みました。ここからは幾度となく来た内浦の海沿いの集落です。
筆者自身、内浦には何度かわからないくらいの回数は訪れています。内浦はもはや見慣れていると思っていましたが、それはあくまで車やバスで通った時の景色。徒歩で訪れるということは今まで一度もなく、景色をゆっくり楽しむということは、実は今までなかったかもしれません。
沼津市街から国道を通って内浦に向かうと、ちょうど口野の交差点あたりで海が間近に見えてきます。「街を抜けたら 青い海が見えてくると」というAqoursの「Fantastic Departure」の歌詞を連想するような景色で、ここまで来ると「内浦に来た」と感じるようなあたりです。車やバスで幾度となく来ている場所で、その景色自体は何度も見ていますが、徒歩で来てみると感じるものが違いました。特に山間を抜けてくると、海まで来た時の達成感はかなりのものでした。
しばらく歩いていると、「沼津アルプス」こと静浦山脈の向こうに富士山が見えてきました。「駿河湾から望む富士山」タイトルの通りの光景で、牛臥山や千本浜などと一緒に富士山が見える風景は、沼津ならではというべきものでした。
さらに進んで、2月25日をもって閉園した「あわしまマリンパーク」の乗船場付近まで来ると、富士山はそのすそ野まで姿を現してきます。沼津市内から富士山を観ようとすると、広い範囲で愛鷹山と被ってしまい、特に北西部ではほぼ見えないという地域も多いようですが、内浦まで来るとその見え方が少し変わります。千本浜や牛臥山、沼津アルプスなどと組み合わせた景色は、静岡県内でも内浦でしか見られないものでしょう。
あわしまマリンパークを過ぎると、ゴールとなっている伊豆三津シーパラダイスがいよいよ近づいてきます。「終わらない旅」だと思っていた10kmのコースも、いよいよ終盤戦。三津の漁港を過ぎると、ついにゴールに到着。ここまでの所要時間は約2時間でした。
全てがさわやかウォーキングの影響とは言いませんが、鯵などを多く提供する三津の飲食店はどこも混雑していました。少し寝坊気味だったがゆえにほぼ固形物を口にしていなかったので、落ち着いた場所での食事を求めてしばしの延長戦へと突入です。
惰性で海沿いを西進していると、長井崎まで辿り着きました。内浦と西浦の境目となる長井崎ですが、筆者はここから見る富士山が一番好きです。愛鷹山とちょうどよく重なって綺麗なすそ野を描いている富士山を駿河湾越しに見ることができるというのは、長井崎ならではの風景だと思っています。Aqoursの9人をはじめとした浦の星の生徒も、アニメの中の世界とはいえ、おそらく同じ富士山を毎日眺めていたんだろうかと思うと、これに勝るものはなかなかないなというのが正直なところです。
この日の昼食は西浦木負の「海のステージ」さんにてカレーをいただきました。富士山と駿河湾に千本浜と沼津アルプスを組み合わせた風光明媚な光景は、確かにここは保養地としての素質があると感じるところです。かつて内浦や西浦でリゾート開発をもくろみ、北欧の豪華客船をホテルに仕立てた西武グループの気持ちもわからなくもないというところです。
3.自分の足で歩いて初めてわかる景色
いつも車やバスで来るところに徒歩で訪問するという貴重な機会でしたが、徒歩ならではのゆっくりとしたペースで回ってみると、今回のさわやかウォーキングはいつも以上に風景をゆっくり眺められるいい機会であったと感じています。「徒歩で内浦に行く」というのは、今までなかなかなかった着眼点で、その点はJR東海の企画力の強さを感じる次第です。
JR東海とラブライブ!サンシャイン!!とのコラボも、スタートからまもなく1年が経過します。キャラクターの誕生日についても、3月4日の国木田花丸ちゃんをもって、ちょうど一巡しました。とはいえ、そのつながりは沼津駅を中心として未だに強固なように感じられます。元はといえばラブライブ!サンシャイン!!がきっかけとなって沼津に移住した筆者としては、日常生活において駅を利用するたびにうれしく感じるというのが正直な感想です。今後も今回のようなイベントがあったらいいですね。