【「夢」がここからはじまるよ】まもなく着工!沼津駅高架化の第1ステップ、新沼津貨物駅ってどんなところ?

10年以上にも及ぶ中断期間が明け、ようやく動き出した感がある沼津駅の高架化事業ですが、工事期間は2041年度末までと、完成まではあと20年近くの時間を要してしまう見込みです。

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古くから東海道線における鉄道の要衝として、国鉄時代には機関区も所在し、今なお貨物駅や車両基地がある沼津駅御殿場線東海道線が発着し、3つのホームに6本の線路を擁しており、高架化には相当の年月がかかることは想像に難くないはずです。さらには、中心市街地の再開発・区画整理事業も一体となって行われることになっているため、それらを踏まえて鉄道施設の配置もがらりと変わることになっています。

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駅の近くにある車両基地については、現在地より西側の、沼津駅片浜駅の間に移設されることになっています。沼津駅の西端部からアプローチ線が設けられ、高架ではなく地平に新しい車両基地が設けられます。こちらについては、以前から用地が広く確保されている状況でした。

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その新車両基地の建設に際し、位置的に支障となってしまっているのが沼津貨物駅です。貨物駅としての主な機能がある部分は、明電舎沼津事業所の線路の反対側に位置しているのですが、現在の沼津貨物駅では、貨物を下ろしたり積んだりする際、貨車を入れ替える必要があり、その入れ替えのための線路が、新車両基地やそちらへのアプローチ線を作るのに支障してしまうとされています。沼津駅本体や沼津駅付近の東海道線御殿場線の高架化には車両基地の移設が必須となるため、貨物駅の移設が、高架化事業における第1ステップになるわけです。

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そんな第1ステップにおける貨物駅本体の工事が、2023年10月から本格的に始まります。貨物駅の移設先は沼津市西部の原地区で、東海道線の原駅と東田子の浦駅の間です。移設先では、2022年1月に周辺の造成工事が始まり、これまでに基盤や調整池などが完成しています。線路やコンテナホームなどの貨物駅本体の工事は2027年度末まで続く見込みであり、それに並行するような形で、2024年度からは車両基地の工事が始まります。これらの工事の進捗に合わせ、2026年度からは高架本体の整備にも着手するとされています。

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沼津貨物駅は、その用地の収用をめぐり、一部の地元住民と国や静岡県などの間で裁判となっていることは、ニュースでも度々報じられています。1審と2審でいずれも住民側の訴えが退けられていますが、住民側は2審の判決を不服として上告しています。もっとも、1審の判決が2審でも覆らない場合においては、ほとんどの場合は最高裁でもその判決が全く違うものになるというケースはほとんどないため、こちらが今後の事業の進捗に大きな影響を及ぼすということは考えられにくいでしょう。

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住民からの訴訟以外に、貨物駅移設から始まる事業を阻んでいたのが、川勝平太静岡県知事でした。1988年に当時の市長が高架化の方針を表明して以降、沼津市が2006年に事業認可を取得し、用地買収を進めていたところ、原地区において一部買収に応じない地権者がいたため、強制収用に向けた調査を始めていました。その方針を突然覆したのが、2009年に初当選した川勝知事で、強制収用は行わずに事業を進めると、就任直後から主張しだしたそうです。

これに加えて、川勝知事が突如として打ち出したのが「沼津貨物駅不要論」でした。当時のJRの貨物取扱量のうち、沼津貨物駅が占める割合が0.4%に過ぎないということを挙げ、沼津駅高架化に際し沼津貨物駅を廃止し、富士市静岡市にある貨物駅に機能を移転させればよいという考えを、高架化に関する市民集会にて打ち出したとされています。

知事自身では「強制収用をせずとも事業を進められる最善の案」のつもりだったのかもしれませんが、沼津市やJRとの間で何ら合意もないままに突然出てきたものでした。特にJR貨物に関しては、貨物駅の移転ではなく立ち退きだけを言い渡された格好であり、最寄りの富士貨物駅でもそれなりの距離があるため、機能の移転は困難であると主張。ただ知事が不要論を撤回することはなく、沼津市にもその案を説明。事業主体が静岡県であったため、沼津市もその方針に従うことになり、強制収用に係る動きがストップ。ここに事業は停滞を余儀なくされたという格好です。静岡県の事務方でも、有識者会議を設置して議論を行い、「沼津市内に貨物駅を移設するのが妥当」という結論が出たそうですが、それでも川勝知事が考えを変えることはありませんでした。

その後、鉄道による貨物輸送が環境負荷の少ない物流の手段として有効であるという見解や東日本大震災をはじめとした災害発生時にトラック以外の輸送手段を確保すべきであるという考えが広まったということもあり、川勝知事は方針を転換し、貨物駅を移設した上での高架化事業推進を表明しました。一度ほぼ完全にストップしてしまった用地買収はかなり困難であり、先述のような訴訟もありましたが、強制収用も経て必要な用地の買収が何とか完了し、2022年から工事に着手。そしてこの度の本体工事開始に至ったという経緯です。

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貨物駅本体の着工を控えた現地の様子を見てきました。造成工事が完了し、調整池やアンダーパスとなるようなくぼみができている以外は、あたり一面に草が生い茂っている状況です。工事の中断期間が長かったゆえに、買収が完了していなかった箇所を除き、長い間このような光景が広がっていたのかもしれませんが、2027年度末までの後期の間に、様相が一変することは想像するに容易いはずです。

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現地に立っていた看板を見ると、今から17年前の平成18年、西暦にして2006年には、工事の計画が認可され、事業が動き出していたことがうかがえます。

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貨物駅の予定地付近には、こちらの一本松踏切を含めて、踏切が2か所あります。これらの踏切は、貨物駅の建設・供用開始に合わせて除却され、代わりにアンダーパスが設けられることになっています。2か所とも現在はかなり狭い踏切であり、自動車は通行することができない様子ですが、アンダーパス化後は道が拡張され、自動車の通行も可能になるようです。

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沼津駅北口すぐのプラサヴェルデには、沼津駅高架化事業の完成イメージ模型が展示されており、新貨物駅についても、完成後のイメージを見ることができます。

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新貨物駅は、東海道線の上下線に挟まれる形で整備されることになっています。貨物駅の事務所などは下り線(富士・静岡方面)よりも海側に設けられますが、貨物列車のコンテナを下ろしたり載せたりする機能は、上下線の間に設けられます。つまるところ、下り線は現在の線路から移設されることになります。工事の進め方としても、そう遠くないうちに線路が切り替えられることが見込まれます。

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沼津駅の高架化については、今なお事業の是非を問う声があることも事実です。残念ながら、沼津市は人口減少が大きな問題となって久しく、市の財政負担を将来にわたって増やすだけではないかと主張する人も中にはいます。駅の南北の往来の自由化についても、高架化ではなく橋上駅舎化やこ線橋の新設で賄えるという意見も存在します。

しかしながら、沼津市中心市街地が抱える問題を解決するには、駅の高架化のような大きな事業が必要であるというのも事実です。駅本体の機能や駅周辺における人の流れだけを考えると、今の沼津駅の改築・改装だけで解決できそうな問題ではあるものの、街全体の課題解決を目的として考えると、沼津駅周辺の鉄道高架化が最適解であるといっても過言ではないはずでしょう。

駅付近にある3か所のガード*1は、大雨のたびに冠水による通行止めが発生しています。2023年6月の台風による大雨の際にも通行止めとなり、バスやタクシーなどの公共交通機関を含めた市内の道路交通に大きな影響を与えたほか、中心部にある飲食店が出勤不可で営業できなくなるなど、経済的な影響も出ました。また、特に国道414号線の三つ目ガードにおいては、伊豆縦貫道の開通により伊豆半島方面へのバイパスルートが完成するなど交通量が以前より減少しているようではあるものの、地域における幹線道路としての役割は変わっておらず、依然として車の流れが悪くなることが多いのも事実です。また、3か所のガード以外においては、踏切が複数個所残っており、踏切で列車の通過を待つ車列が長くなることも珍しくはありません。駅を改良するだけでは、こちらの課題を解決するには、到底至らないはずです。

また、駅周辺が高架になり、駅構内のこ線橋や東西のガードではなく、駅に設けられる南北自由通路や平面の広い道路で駅の南北を行き来できるようになれば、駅周辺の交通のバリアフリー化が加速し、お年寄りや体が不自由な方、ベビーカーを使っている人などにとっても、便利で使いやすい街になるはずです。特にガードに関しては、坂道や階段が存在する以上、移動にあたり大きな障壁になってしまう方が少なからずいるはずで、その障壁を解消するには、駅付近の高架化によるガード部の解消・平面化が一番の解決策になるはずです。

これらの交通の円滑化・利便性向上のほか、ねん出された鉄道用地を活用した街づくりなど、駅の高架化によりできることは多々あるとされています。すべての方にとってそうとは言い切れない側面もあることは十分理解しておりますが、多くの沼津市民にとって、沼津駅の高架化は、長年の「夢」であったはずです。図らずも構想から半世紀がかりになることが確定してしまった事業ですが、貨物駅の移設に始まり、着実に動き出していることも事実。夢がここからはじまるという意味で、貨物駅の移設が滞りなく進むことを願うばかりです。

*1:国道414号線の三つ目ガード、リコー通りの南にあるあまねガード、外堀通りの西端から北上したところにあるのぼりみちガード